マイ・フィールドの住人たち


マッタブジガン拒眠症


自称、拒眠症。眠るのが勿体ないと思っている人。
眠ると、今日が終わってしまう。あ〜勿体ない」。などとくだらないことを考えている。
で、なにをしているかというと、別に何にもしていない。誰にも邪魔されずに、グデ〜、としている時間がいいのだ。


星を眺めていることもある。見るでもなく、ボ〜とテレビの画面を眺めていたりもする。
そんなとき、かすかな風の音と虫の声があったりすれば、なおよろしい。小雨に蛙の声も、風情があっていいかもしれない。
あ〜風流人、などと悦に入ってみたりして、これが正しい拒眠症のありかた。なんて、バカですかねぇ、こういうのって。


それともう一つ。みんなが寝ている間に、非日常的な出来事に遭遇することがあるかもしれない、非現実的なことを体験できるかもしれない、という期待感もちょっとあったりして。
たとえば、こんなこととか・・・。

グデ〜として、見るでもなくボ〜とテレビの画面を眺めていると、コツッとサッシのガラスに、何かが当たる音がする。続いてキー、キーという声。

ネズミ・・・?」なんて思いながら覗いてみる。ヒモのような物が落ちているのが見える。動いたような気がする。暗くてよくわからないので、懐中電灯を探す。なんとなく、いやな予感がしてくる。ガラス越しに電灯を点けてみる。

ワッ、ナンダヨ、オマエワ!、ナンデコンナトコニイナキャイケネェンダヨ!!!
点線トゲトゲ吹き出しに、カタカナセリフのビックリマーク連発状態で硬直する。
動物園以外でこんなのを見るのは、初めて。いや、奄美大島の山の中で見たことがあるが、あれは
居るべくして居たのを見たわけで、これは町の中で、しかも絶対に居てはいけない自宅の庭で、しかもしかも、毎日出入りしている戸口で、こんなことが起ころうとは・・・・!!。
ここはしかし、冷静に対処すべきところ。なぜなら、これぞまさしく”正しい拒眠症における非日常的事例の醍醐味!”、なのであって、この先二度と、こんな場面に遭遇することは、無いかもしれないのである。
すばやくカメラにストロボをセット。薄明かりの中、かすかにうごめく気配に向かって数回フラッシュをたく。
懐中電灯を向けると、口を大きく開けて舌を出し、「シャーッと(声を出したかどうだったか、定かではないが)威嚇してくる。
いまにも飛びかかるぞ!という雰囲気である。
これにはちょっとビビる。あわてて家の中に入り戸を閉める。

さて、どうしたものか。深夜のことゆえみんな寝静まっている。誰かが、朝起きてきて噛まれたらどうしよう。 いっそバットで殴り殺そうか、しかし、それはあまりに可愛そう。なにより、逆襲されたら恐い。
あーだこうだ考えた末、 ダンボールの箱に追い込んで逃げられないようにガムテープで止め、明朝、何処か人目のつかないところへ放してやるのがベストか、と考えた。
問題は、どうやってダンボール箱に追い込むか。とりあえず、第1、第2、第3と作戦を立て、段ボール箱と捕虫網を用意して、全神経を集中しつつ庭に降りる。

しかし、ヤツは居ない。
懐中電灯で照らしながら探したが何処にも、姿はない。家の中に入ってから、意を決して出てくるまで数分しかたっていない。いったい何処へ。あちこち棒で突っついてみたが藪蛇は出なかった。とりあえず”庭にヘビがいる、気をつけて”とメモを書いて置いた。

翌日、出来上がった写真を見て更に驚いた。ヤツがくわえていたのはメジロだった。
 

当夜の出来事を検証してみる。

木の枝で眠っていたメジロに、その蛇が襲いかかった。
危うく逃れたメジロは明かりへ向かって飛んできてガラスにぶつかった。
それが”コツッ”という音。
落ちたところを、追ってきた蛇が噛みついた。
「キー、キー」はメジロの悲鳴だった。
蛇が姿を消した後には、なんの痕跡もないことから、丸飲みにしてしまったと考えられる。

隣のおじいさんに、写真を見てもらったら 「これは、マッタブだ」と言われた。そして懐かしそうに「まだ、種(たね)は尽きていなかったんだなあ。昔は、よく見かけたのに、このごろ見ないんで、種切れ(絶滅)したかと心配しとった」と、おっしゃった。一瞬とはいえ、バットで殴り殺そうか、などとと考えた自分が恥ずかしい。

アカマタ(ヘビ科)
奄美、沖縄諸島に分布します。赤いまだらの斑紋をそなえているので、毒々しく見えますが、無毒のヘビです。性格は、あらいほうで、ヘビ類のワンパク者といったところでしょう。
(新報出版、「沖縄園芸百科〈別巻〉ふる里の動物たち」から原文のまま転載)
       

そして、カニ!。

次の日の夜、今度は「カタッ、カタッ」という音がして、覗いてみた。
昨夜のこともあり、慎重に懐中電灯を照らしてみると、こんどは、カニ!。
島で言う「ジガン(地蟹)」、それも地ガニにしては、かなりでかいヤツ。

正しい拒眠症のありかたに従い、冷静かつ速やかにカメラを準備し、シャッターを切る。脇の方で、また「カタッ、カタッ」と音がする。懐中電灯を向けると、さらにもう一匹(こっちの方がもっとデカい)、「撮られてなるものか」といわんばかりに、積んであったてっぺい石の上を、カタカタさせて逃げていく。(
ヤツにはヤツの生き様があるにちがいない、深追いはよそう。)てっぺい石が揺れるぐらいだから、ふだん見慣れたカニとはわけがちがう。

それにしても、いったい、これは。

たぶん、この時期、カニは繁殖期に入っていて、産卵のため海を目指していたのかもしれない。外でもよく見かけるし、道路で車にひかれて潰れているのを数ヶ所で見かけた。
それにしても、でかいジガンであった。


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